木造帆走軍艦の建造
木造帆走軍艦、それは巨大な木造建造物です。現代の王国海軍では小型のタイプ42駆逐艦(排水量4820トン)より小さい、ネルソンの時代最大級だったH.M.S.ヴィクトリー(排水量3500トン)ですら、まじかに見るとその存在感は計り知れない威容を誇ります。その木造帆走軍艦の構造を見てみましょう。
発注から設計まで
王国海軍では木造帆走軍艦はまず海軍本部(Admiralty)から艦政本部(Navv Board)に発注されます。艦政本部(Navv Board)では、海軍主任造船技師(Surveyor of the navy)が設計を行い、下記のような設計図(Lines plan)が描かれます。
設計図(Lines plan or Sheer plan)は、1/48(1/4インチが1フィート)で一枚の紙に上記のように、側面図(sheer plan)、平面図(half-bredth plan)、正面図(body paln)が描かれます。木造帆走軍艦は正面、上面から見て左右均等のため、側面図(sheer plan)は右側面、平面図(half-bredth plan)は左舷を上から見た図、正面図(body paln)は右半分が船首から見た図、左半分が船尾から見た図となっています。 側面図(sheer plan)は、各シアー・ラインとそれに対応する各デッキのライン、均等に分割したステーション*1、キール、ステム、スターン、、各マスト、各チャネル、砲門などが描かれました。また、平面図(half-bredth plan)で水平に輪切りにするウォーター・ラインも描かれました。 平面図(half-bredth plan)は、側面図(sheer plan)のウォーター・ラインに対応するライン、各フロアのラインと船体を斜めに切ったダイアゴナルが描かれました。 正面図(body paln)は、側面図(sheer plan)のステーションに対応する断面のラインです。ウォーター・ライン、ダイアゴナルは直線で描かれています。 この3つの図面は互いに関係していて、ウォーター・ライン、ステーション・ライン、ダイアゴナルの3つのカーブが、2つの図面では直線で、3つ目の図でむらなくカーブしているかでチェックされました。 また、1枚の設計図(Lines plan or Sheer plan)から同じ船型の木造帆走軍艦が複数造船されることもあったため、一番艦の設計図(Lines plan or Sheer plan)では、側面図(sheer plan)に柱、ラダー、キャプスタンの位置が書かれた透視図であったり、各フロア図が描かれることもありました。
(注意)上記の設計図(Lines plan or Sheer plan)は、「An Universal Dictionary of The Marine」からのものですが、 何故か向きが左側面から見た左向きに書かれています。艦政本部(Navv Board)の図面を始めとして、現代の帆船模型の 図面まですべて右側面から見た右向きに書かれています。 また上で書いたことがすべて反映されてるわけではありません。
ドックヤードモデルの製作
図面が完成すると、ドックヤードに送られて熟練工の手で模型(ドックヤード・モデル)が作られます。 例えばこのようなモデル
これはロンドンのサイエンス・ミュージアムに展示されているアドミラリティ・コレクションのひとつH.M.S.ウォリアです。
ほかにもこのような構造模型も作られました。
これはチャタム・ドックヤードに展示されているアドミラリティ・コレクションのひとつH.M.S.ベローナの構造模型です。 これらの海軍本部(Admiralty)が発注した木造帆走帆船の模型はドックヤード・モデルとして知られ、アドミラルティ・コレクションとしてNMM、サイエンス・ミュージアムで見ることができます。多くは柘植の木で作られ、200年以上たった今でもすばらしい出来栄えを見ることができます。 さて、模型が完成すれば、再び設計図(Lines plan or Sheer plan)とともに艦政本部(Navv Board)に送られ審査、また海軍本部(Admiralty)も同意すればドックヤードに建造命令が出されました
このディオラマはネルソンの時代より100ほど前の時代の風景と思われますが、ネルソンの時代でもこれと変わらない様子が展開されたでしょう。サイエンス・ミュージアムでみることができます。
建造命令から建造
建造命令が出されるとドックヤードではまず、設計図(Lines plan or Sheer plan)から実寸の材木(timber)を切り出すために実物大の型板(mold)を作るところから始まります。 そこで、モールド・ロフトと呼ばれる建物の床面に1/48の設計図(Lines plan or Sheer plan)を実物大の大きさに描くことから始まりました。
これはチャタム・ドックヤードに残るモールド・ロフトの建物です。一階はマストを作るマスト・ハウスになっていました。
さてモールド・ロフトで型板(mold)が作られると、その方に合わせて材木(timber)が保管されている木材より切り出されます。
これらは木造帆走軍艦の構造をなす主要な材木(timber)です。ステム、スターン・ポスト、キール、キールソン、フロア・チンバー、フレーム、ニー、ビームなどになります。
簡単に書くとまずキールの据付から始まり、ステムとスターン・ポストのたちあげ、フロア・チンバーの設置とキールソンの固定、各フレームのたちあげ、フレームへのニーのとりつけフレームをビームでつないでいくという順番に進みます。
上の設計図(Lines plan or Sheer plan)の砲74門艦とは異なりますが、キール、ステム、スターン・ポスト、ビームなどの基本構造は一緒です。
これらは砲74門艦のミッドシップです。フレームが複数の材木(timber)から構成されていること、キールとキールソン、フレームの位置関係もわかります。またフレームの外側の外板(plank)と内張りがされていて一番分厚いところでは16インチ以上(約40センチ以上)ありフレーム構造が密なのと完全に外板(plank)を内張りを張った木造帆走軍艦が非常に頑丈であったかがわかります。
この写真はH.M.S.ヴィクトリーの船倉のライダーと呼ばれる補強材と内張りを撮影したものです。このライダーの巨大さ、内張りの厚さには驚愕しました。
これは砲74門艦の下層甲板の図です。太い梁(beam)が何本もあり、細いビームとあわせて非常に頑丈に甲板が作られていました。砲74門艦の大砲1門の重量は約3トン、それが両舷で片舷正射(broadside)を行うわけですから甲板も非常に頑丈にできていました。
この写真はH.M.S.ヴィクトリーの船倉からフォアのオーロップを支える梁(beam)を撮影したものです。いかに頑丈にできているかわかると思います。
完成
完成そして晴れて進水式となります。マスト、ヤードなどの艤装(rig)は進水式後行われます。この素晴らしいディオラマはポーツマス・ヒトリー・ドックヤードのVictoryギャラリーで見ることができます
添付ファイル: