Master and Commanderの由来
航海長兼指揮官(Master and Commander)は、17世紀末に登場しています。当初は6等級の艦の役職でした。6等級艦では、航海長(Master)を乗艦させるには小型過ぎると考えられ、指揮官(Commander)が航海長を(Master)兼務したところから始まってます。このころには海軍は民間の船舶の徴用ではなく、国王陛下の海軍となり一人前の航海者が育ってました。
その後、6等級艦はPost Captainが指揮を取る艦とされましたが、航海長兼指揮官(Master and Commander)は、スループ艦の指揮を取る役職として残ります。そして1748年にrank as majorとして階級に組み込まれます。Majorですから陸軍少佐相当、海軍少佐と訳すのが適当ということになります。当初は頭にMasterが付いていることから船員の階級だという見られたようなこともあり、将校(Lieutenant)の一時的な職位だったこともあったようですが、1750年代には階級として定着、LieutenantからPost Captainへ昇進するのは極めて稀で、Post Captain昇進への重要な階段となりました。
ちなみに、Universal Dictionary of Marine(1780年版)にはっきりとrank as major(階級は少佐)と書かれています。
海軍少佐(Master and Commander)は歴史的には、指揮官(Commander)が航海長を(Master)兼務していたからそう呼ばれたのですが、フランス革命戦争が始まった頃には完全に階級として定着しており、6等級艦より小型のスループ艦にも航海長(Master)が同乗していて、航海長兼指揮官(Master and Commander)は艦長(Captain)として指揮を執っていたことから、1794年には実態に併せて航海長(Master)が外され、単に指揮官(Commander)と呼ばれるようになっています。
さてホーンブロワーの翻訳者高橋泰邦氏はここでも読者を惑わす訳語を作ってしまいました。至誠堂の翻訳者の方々も同じです。
Commanderの訳例を挙げよう。「司令官」の場合は問題ないが、若い士官(「海尉」)が小型艦(スループ艦や、カッターなど)の指揮官に任命されたときの、身分をいうCommanderが問題だった。その任にあるときだけの呼称であって階級ではない。任務が済めばただの「海尉」にすぎない。Post-Captainとはここが違う。それでCommanderは、「海尉艦長」と訳し。「コマンダー」とルビをふることにした。 ~ナポレオンの密書、p.170より
上に述べたように1750年代にはすでに階級として定着、、LieutenantからPost Captainへ昇進への階段となっいていたのです。となれば、海尉艦長、将校艦長の訳が単に読者を惑わす結果になったとしか思えません。単に海軍少佐(Commander)でよかったのです。
ただし、1914年に、Post Captainに3年未満、3年以上の先任の区分けが無くなり、Captain (海軍大佐)に統一され、Commanderが1ランク上がり海軍中佐となり、先任8年以上の海軍大尉(Lieutenant)が全て、新設された海軍少佐(Lieutenant commander)に昇進したことをを注記する必要があります。
- 余談・・・Master and CommanderもしくはCommanderは階級ですが、通常公式文書の中でしか使われていません。一般的には艦を指揮していなくても"Captain"何某と呼ばれました。
参考:士官の階級比較