王国海軍 旗(Colours)
現代でもそうですが、今から200年前の王国海軍軍艦でも数々の旗が掲げられていました。それらは国籍、王族や指揮官の座乗を示すものであったり、艦と艦との間の通信を行うためのものでありました。
ジャック(Jack)とエンスン(Ensign)
王国海軍において軍艦の国籍を示す旗は、艦首旗竿(Jackstaff)にジャック(Jack)、艦尾旗竿(Ensign staff)にエンスン(Ensign)の2種類を掲げました。
ジャック(Jack)は、いわゆるユニオン・ジャック(Union Jack)です。海事用語でのジャック(Jack)は「小さい」「平凡な」などの意味で、エンスンより小さい旗であり、通常停泊時のみ艦首旗竿(Jackstaff)に掲げられ、航海中には掲げられていませんでした。 最初のユニオン・ジャック(Union Jack)は、エリザベス一世の死去に伴うイングランドとスコットランドの「同君連合」により、「同君連合」の船舶の国籍を示すために1606年に制定されました。その後1707年のイングランド、スコットランド連合法により連合王国となったときもそのまま使用され、1801年のアイルランドとの「連合法」によりアイルランドが加わることにより改訂され、現在に見られるものとなりました。 ユニオン・ジャック(Union Jack)と通称されている旗は連合王国船舶の国籍を示すために定められた旗であり、現代でも英国国会議事堂に掲げられるなど連合王国国旗として使われていますが、法令上連合王国旗としてとして定められているものではなく慣習上使用されています。又、艦首旗竿(Jackstaff)に掲げられるときのみユニオン・ジャック(Union Jack)と呼ばれ、それ以外の場所に掲げられる場合はユニオン・フラッグ(Union Flag)もしくは単にユニオン(Union)と呼ばれます。
エンスンは、旗の向かって左側の上の4分の1の部分(カントン)にユニオン・ジャック(Union Jack)を配置したもので、赤色軍艦旗(Red ensign)、白色軍艦旗(White ensign)、青色軍艦旗(Blue ensign)の3種類がありました。カントンに配されるユニオンジャックは1801年に改定されましたので、エンスンも同様に1801年に改定されています エンスンは艦尾手摺(taffrail)上の艦尾旗竿(ensignstaff)に掲げられる規則となっていました。しかしミズンマスト(mizzen mast)の帆装がラティーンセイル(lateen sail)からスパンカー(spanker)へと変化した1790年頃にはスパンカーの帆裾を張るためのスパンカー・ブーム(spanker boom)が艦尾旗竿と干渉することから停泊中のみ艦尾旗竿に掲げられ、航海中は通常ミズンマストの斜桁頂(gaff peak)に掲げられていました。
将官旗(Flag of command)
海軍元帥から海軍少将の提督が座乗する艦は、提督が座乗していることを示す将官旗を掲げました。 海軍元帥はユニオンジャック、赤色戦隊の提督は赤旗、白色戦隊の提督は白旗(セント・ジョージ旗)、青色戦隊の提督は青旗をそれぞれ掲げました。又。海軍元帥、海軍大将はメインマスト頂、海軍中将はフォアマスト頂、海軍少将はミズンマスト頂にそれぞれ掲げることで階級を示しました。このことから提督を旗将(flag officer)と言い、提督の座乗する艦を旗艦(falg ship)と呼ぶようになりました。
代将旗 この当時の代将(Commodore)は、正式には将官ではないのですが、その乗艦のメインマスト頂に幅広燕尾旗(Broad Pendant*1)を掲げ、その座乗を示しました。 エンスン、将官旗と同様に赤、白、青の3色があり、赤色戦隊旗下の代将は赤色代将旗、白色戦隊旗下の代将は白色代将旗、青色戦隊旗下の代将は青色代将旗をそれぞれ乗艦のメインマスト頂に掲げました。 又、代将は乗艦に旗艦艦長を伴う上級代将と乗艦の艦長を自分自身が務める下級代将の2種類があり、1806年に下級代将の代将旗として代将旗の旗竿側に白丸を配置したものが制定されました。
就役旗(Commissioning pendant*2)
就役中(in commission)の王国海軍軍艦は、メインマスト頂にその就役期間中常に就役旗を掲げていました。 就役旗はエンスン、将官旗、代将旗と同様に赤、白、青の3種類があり、赤色戦隊旗下の軍艦は赤色就役旗、白色戦隊旗下の軍艦は白色就役旗、青色戦隊旗下の軍艦は青色就役旗をそれぞれメインマスト頂に掲げました。又、海軍本部の直接命令下で活動する軍艦が掲げる就役旗は、赤、白、青の3色就役旗でした。