コネクションの威力
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コネクションの威力
msg# 1こんにちは。ご無沙汰しております。
ちょっとお尋ねしたいことがあり、お邪魔しました。
以前、こちらに書き込みしました小説「Sea Road to Camperdown」を読んでの疑問です。
本はキャンパーダウン海戦のお話。ダンカン提督66歳の底力が伝わってくる、渋い物語でした。面白かったです~。
作中、提督が長年にわたる海軍生活を回想しておりまして。その中で、あれ、と思ったのですが。
18c末当時、艦長職を断るという事態は度々あったのでしょうか?
そして、その後でも再び昇進コース(?)に戻ることはあったのでしょうか?
と、言いますのは。
小説の中でダンカンは熱病に罹り、医者から西インド諸島勤務は自殺行為、と言われてしまいます。
そのため、西インド諸島に配置された艦の艦長職を二度、断ってるのです。
他の本の主人公たちは、誰もが「乗る艦をくれ!」「浮くものなら何でも!」という具合でしたので、珍しくて目に留まりました。(ジャックの場合は駆け引きがありましたが)
しかし、ダンカンは結局は提督にまでなってるのですよね。
艦長職を断ったという事実よりもコネは効力絶大だったのでしょうか。
(確かに、作中、義理のおじさんヘンリー・ダンダスやスペンサー卿とのつながりがあるようなのですが)
キャンパーダウンに参戦していた他の本の登場人物を思うと「ええ、いいんですか? そんなんで?」と、複雑な気持ちになってしまいました(^^;)。
Re: コネクションの威力
msg# 1.1にっけさん、いらっしゃいませ~
まずは紅茶はいかがですか、もらい物ですがセイロン島内でのみ流通している物で薫り高くミルクティが絶品です。ささ、こちらのドイツのマロンケーキもどうぞ。席は日当たりの良いこちらにどうぞ。←ちょっと物真似ですね(笑)
さて、「Admiral's in the Agen of Nelson」のダンカン提督の項を読みましたところ確かに1780年と1782年の2度艦長職を辞していますね。そして、1783年のアメリカ独立戦争終了直前戦列艦フードロイアント、終戦後の平和時には戦列艦エドガー艦長職を得ています。
そこでコネの力ですが、ダンカン提督(当時は艦長)のこれが強力でして、当時の第一海軍卿ケッペル提督のお気に入りだったのです。
ダンカン提督は士官候補生時代、海尉からずっとケッペル艦長の下で仕え、艦長昇進もケッペル艦長の引き。ケッペル艦長が戦隊司令官の時の旗艦艦長として7年戦争を戦い勲功をあげています。その関係はボライソーと彼の部下たちのよう、へリックのモデルがダンカンなのかはわかりませんが、ボライソーのモデルがケッペルなのはアレクサンダー・ケントが言っています。
これだけのコネがあれば多少の我儘も「あいつは、仕方ないなあ」という具合だったでしょうね。それが証拠に、7年戦争とアメリカ独立戦争の間の平和時には「職をくださいませ~」と海軍本部に手紙を書いたけど半休職の身のまま。ところが最初に艦長職を辞した後、ケッペルが第一海軍卿になったとたんに砲90門艦ブレインハイムの艦長任命、ブレインハイムが西インド行きを命じられると艦長職を辞したにも関わらず、辞した翌月砲74門艦フードロイアント艦長任命と言う具合、そしてケッペル提督が第一海軍卿を辞した翌月ダンカンの乗艦エドガーは解役、彼は半給職の身となっています。
その後は、年功序列で提督に昇進、フランスとの開戦後は奥さんの義理の叔父ヘンリー・ダンダスとスペンサー卿のコネが物をいい、北海艦隊の司令長官職を得たわけですね。
ネルソンの時代に提督として名を残している、ハウ卿、フッド卿、ブリットポート卿、セント・ヴィンセント卿、サー・エドワード・ペリューなどのいずれも調べたところ何らかの大きなコネを持っていますし、ネルソンもそうです。「The Complete Navy List of The Napoleonic Wars 1793 - 1815」という王国海軍士官名簿を見ても、この人は誰の叔父だの甥だの、奥さんは誰の娘だのというのが実に多い、そういう人を見ているとやはり、「The Naval History of Great Britain : During The French Revolutionary And Napoleonic Wars」などの編年史に名が挙がっている人が多い。
コネの力を最大限活用し職を得たら、あとは実力。そして戦時には実力のあるものは勲功を挙げ、金と地位と名を残す。コネはあっても実力が無いものは一般に名すら知られていない。そういう時代だったのです。
>「ええ、いいんですか? そんなんで?」
というわけで当時の価値観では、「そんなんでよかった」のです(^^;;
「コネ」の力はこの時代、とっても大きかったのですね。
Re: コネクションの威力
msg# 1.2>紅茶&ケーキ
会食に同席したハラペコ士官候補生の気分で(目が泳いでる)、おいしくいただきました(^^)。
>コネ
ありがとうございます! こんなに強大なコネだったとは思いませんでした。 どうも小説では海尉時代あたりのエピソードをすっぱり省いてあるようで、ケッペルについてもあまり触れられていなかったのです。
だもので「酷い上司!」としか思ってませんでした(笑)。←いや、だって結構ひどい。熱病でふらふらしてるダンカンを上陸作戦に参加させるんですもの。
それはさておき。エドガーは戦列艦だったのですね。『二回艦長職を断った後ではポーツマスのguardship エドガーの艦長となるのも当然……』などなど書いてあったので、てっきり監視艇だと思ってました。
そこから復帰して提督にまでなるとは大変だなあ、と思っていたのです。ここらへんはフィクションなのかもしれませんね。
>コネの力を最大限活用し職を得たら、あとは実力
挙げられた名前を見て、なるほどなあ、と思いました。コネだけでもだめ、実力だけでも難しい。先の細く尖ったピラミッド型を思い浮かべてしまいました。
当時の風潮を、これまでよりリアルに感じながら本を読めるようになりそうです。ありがとうございました。
そして、私信のようで申し訳ありません。
艦長Iさま>
こちらで「この本、珍しいよ」と教えて下さってありがとうございました。
古書店で発見、安さ(!)と表紙に惹かれて買ったものの、そのまま積ん読本になるところでした。
(クライマックスを除いて)はらはら、どきどき、という雰囲気とはちょっと違いますが、ダンカン提督のどっしりした存在感や構成が面白かったです(^^)。
ショウエル・スタイルズ
msg# 1.3>にっけ様
「Sea Road to Camperdown」完読おめでとうございます!!
スタイルズの作品は、実在人物に取材した小説が非常に多いです。青少年向けの伝記冒険小説といった感じで、昔、小学校の図書館で「野口英世」とか「二宮金次郎」とか借りて読んだ頃がなつかしくよみがえります。
研究書ではなく、あくまでも小説なので、資料としては参考程度ですが、どの作品も切り口が面白く、上手にまとめてあって楽しいです。
特に会話の書き方がうまいな~といつも思います。180ページくらいの作品が多いので、通読しやすいのも魅力。
なかなかのユーモア感覚があるし、泣かせる話もお得意。ついこの作家の術中にはまってしまい、気がつくと、密林からもっと詳しい研究書を取り寄せているありさま…(積読本が増えました)
機会があったら、他のも読んでみてください。
>只野様
コネの解説をありがとうございました。
陸軍はお金があれば階級が買えたようですが、海軍はやっぱりコネがモノを言ったようですね。